日本はなぜ地域によって最低賃金が異なるのか?

2021/08/12

お役立ち情報 コラム

2021年7月14日、厚生労働省の審議会が、今年度の最低賃金についてすべての都道府県で28円引き上げ、全国の最低賃金平均が930円になることを発表しました。
今回の引き上げは、時給で最低賃金が示されるようになった2002年度以降、最も大きな引き上げ額となり、早期に全国平均時給1000円を目指している政府の意志が強いものであることがわかりました。
ただし、このコロナ禍で、飲食業や宿泊業など以前苦しい業績が続いている企業も多く、マイナス要素としての影響も懸念されています。
そもそもこの「最低賃金」とはいつどのような形で制定されたのか?地域によって金額が異なるのはどうしてなのか?解説していこうと思います。

  1. 最低賃金とは?
  2. 最低賃金の制定
  3. 都道府県別で最低賃金が異なる理由
  4. 最低賃金を全国一律にするとどうなるか?
  5. 最低賃金の大幅引き上げに対する課題
  6. まとめ

最低賃金の制定と地域によって最低賃金が異なる理由

最低賃金とは?

『最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。』(厚生労働省HPより)

最低賃金は、労働者の最低賃金額を保障することで、「労働条件の改善」「労働者の生活の安定」などの向上を図る目的として定められたものです。

最低賃金は、世界各国において、労働者の基本的な権利として広く適用されており、日本では、日本人・外国人労働者問わず全ての労働者や職種に適用されていますが、国によっては、職種限定であったり、外国人労働者は適用外であったりするなど、賃金は労働力の需要と供給のバランスで決定するといったケースもあります。

最低賃金の制定

1947年(昭和22年)労働基準法の施行

日本における最低賃金制定の原型となったのが、1947年(昭和22年)に施行された「労働基準法」による最低賃金制度でした。
しかし、当時の最低賃金制度は、労働大臣(旧労働省の国務大臣のこと。現在の厚生労働省・厚生労働大臣にあたる。)または都道府県の労働基準局が、必要に応じて最低賃金を決めるという極めて曖昧なものであり、戦後の混乱期の影響もあり、制度としてほとんど機能していない状態でした。

1959年(昭和34年)最低賃金法の制定

1959年(昭和34年)に労働基準法の中の最低賃金制度を独立させ、「最低賃金法」が誕生しました。
しかし、この当時は業者間協定方式と呼ばれる方式を取っており、業者間や地域間でそれぞれ最低賃金額を決定していたことによる不均衡さが問題視され、1968年(昭和43年)に最低賃金法の改正が行われると、労働者と使用者の中立の立場にある審議会が最低賃金を提示する審議会方式を導入し、更に1978年(昭和53年)、目安制度と呼ばれる、地域別最低賃金に全国的な均質化を図るため、毎年の最低賃金の改定に際し、経済指標等を基に中央最低賃金審議会(※)が改定の目安を作成し、地方最低賃金審議会(※)に示すことで最低賃金額が決定するという方式が導入されました。
この目安制度が最低賃金の決定方式として現在も続けられています。

※最低賃金審議会…厚生労働大臣または都道府県労働局長の諮問に応じて最低賃金に関する重要事柄を調査・審議する組織。最低賃金法に基づいて、厚生労働省に中央最低賃金審議会、各都道府県労働局に地方最低賃金審議会が設置されている。(デジタル大辞泉より)

都道府県別で最低賃金が異なる理由

前項の「 1959年(昭和34年)最低賃金法の制定 」にも記載したように、各都道府県労働局に地方最低賃金審議会が設置されているため、都道府県毎に内容を検討しており、また、「地域別最低賃金は、[1] 労働者の生計費、[2] 労働者の賃金、[3] 通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定めるもの」(厚生労働省・最低賃金の種類より抜粋)と決められています。
つまり、地域によって労働者の生活費や生産性などが異なると判断し、その地域差に合わせた内容で調整しているため、地域によって最低賃金が異なっているのです。

ちなみに世界的に見ると、地域別最低賃金制度の導入を行っているのは4か国のみとなります。

最低賃金を全国一律にするとどうなるか?

「都道府県別で最低賃金が異なる理由」で記載した通り、 「地域によって労働者の生活費や生産性などが異なると判断し、その地域差に合わせた内容で調整しているため、地域によって最低賃金が異なっている」ことから、地域により最低賃金が異なっています。それを全国一律にした場合どのようなことになるでしょうか?
まずはメリットから見て行きたいと思います。

メリット① 地方労働者の収入が上がる

単純に考えた場合の一番のメリットが、地方労働者の収入が上がることです。
例えば、2021年8月現在、一番低い最低賃金エリアの最低賃金額は「792円」ですが、それが一番高い最低賃金である東京都の「1013円」に統一されたとしたら、実に221円の賃金上昇となり、フルタイムで勤務している人であれば月数万円の上昇となります。
一気にそれだけの賃金上昇となれば、地方労働者の生活が豊かになるかもしれません。

メリット② 東京一極集中の解消

地方も東京も最低賃金が変わらないとなれば、生まれ育った故郷で働きたい人や自分が好きな土地で働きたいという人が増えることも間違いないでしょう。
地方での労働者が増えれば、地方の生産性が上がり、地方経済が活性化することも期待できます。

一方で最低賃金一律化によるデメリットも考えられます。

デメリット 賃金が支払えない企業が倒産する

企業の出費で大きな割合を占めるのは「人件費」です。ある日を境に一気に従業員の賃金が上がってしまうと、売上よりも人件費の方が高くなってしまい、賃金の支払いに対応しきれず倒産してしまう企業が出てきます。また、倒産まではいかなくとも、人員削減に動く企業も出てきます。
日本は中小企業が圧倒数を占める国なので、倒産件数が増えると失業者数も増える恐れがあります。

また、企業が倒産すると、地方に住む人々の生活が立ち行かなくなります。特にスーパーやコンビニなど、ライフラインに関わるような企業が倒産してしまうと、地方での生活を送ることが困難になり、かえって大都市への人口流出が懸念されることになります。

最低賃金の大幅引き上げに対する課題

最低賃金の引き上げは国として今後も実施していかなければならない施策であり、地域格差が更なる東京一極集中および地方の衰退化を招いていることから、早期に引き上げを行っていかないといけない状況です。

また、最低賃金の国際水準を日本に当てはめると「1178円」が妥当とも言われており、現在の日本の最低賃金平均が930円であることを考えると、まだまだ引き上げる必要性があり、所得格差が広がり、相対的貧困率が世界的に高い日本において重要な課題と言えるでしょう。

そして、最低賃金の大幅引き上げを実現するためには、賃金の上昇に耐えうる企業の生産性向上が必須となり、企業が生産性を上げるためには、私達のような企業で働く労働者の頑張りが大事になってきます。

最低賃金を上げたければ、結果、労働者の努力が必要なのです。

まとめ

最低賃金が地域によって異なるのは、過去からの複雑な事情が絡み合っていること、最低賃金の一律化や大幅引き上げには大きな課題があることがお分かりいただけたかと思います。

ここ近年、毎年のように最低賃金の改定が入り、私達国民はそれを当たり前として捉えがちですが、賃金を引き上げるということは、企業努力と労働者の努力が欠かせないのであり、決して当たり前に上がるものではないということを認識しておきましょう。

【コラムを書いた人】
西村 美保
パセリスタッフ専属コーディネーター。コーディネーター歴6年。
様々な職種において転職希望の求職者をサポート。他にもスクールにおいてセミナー活動を行い、転職や就業に関する情報収集の仕方や良い転職を行う方法を伝授している。